立春の前日である節分は、ちょうど冬と春の境目にあたります。古来、こういった季節の変わり目には、邪気や物の怪が集まりやすいとされ、それらを追い払うために、豆まきなどの行事が行われてきました。また地方によっては、イワシの頭の焼いたものを葉がついたままの柊(ひいらぎ)の枝にさし、玄関い飾って魔除けにするところもあります。これは、イワシなどの匂いの強いものを鬼が嫌うという言い伝えからで、柊の葉のトゲも鬼を近づけないという意味があつようです。一方、イワシを焼いて食べることで魔除けにするという地方もありますが、こちらはイワシを焼いた時に出る煙や匂いを鬼が嫌うという理由からだそうです。イワシを漢字にすると魚へんに弱いと書きますが、これは獲ったらすぐに調理しないとたちまち傷んでしまうというイワシの性質からきています。放っておくとすぐに匂いがきつくなることから、昔の人は魔除けに使おうと考えたのかもしれません。また、古くからサバと並んで近海で豊富に獲れた、いわゆる大衆魚だったということにも理由があるかもしれません。日本で獲れるイワシの主な種類には、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの3種類があります。刺身にする他、塩焼きなど鮮魚としてよく食卓にのぼるのはマイワシですが、近年は漁獲量が激減しています。ウルメイワシは通常、干物に加工されて流通します。カタクチイワシもめざしなどの干物にされるほか、小型のものは煮干しなどに加工されます。おせち料理の一品に「ごまめ」がありますが、これもカタクチイワシの幼魚を調理したもの。別名を「田作り」というように、昔は田んぼの肥料としても使われていました。イワシはそういった意味でも庶民の身近な存在だったのです。