8月の「豚汁」でも触れましたが、鹿児島県では豚汁のことを薩摩汁と呼んでいます。一説によれば、野菜の他に豚肉などの肉類を入れたみそ汁は、ここ薩摩で生まれて全国に広まったとも言われており、まさに豚汁の原点とも言えそうです。薩摩の国では、戦国時代から豚肉を「歩く野菜」と呼んで食べていたそうですが、有名な黒豚を育てるようになったのは、1609年、薩摩藩の当主である島津家が沖縄に侵攻がきっかけに。占領地の沖縄からたくさんの黒豚を連れて戻り、薩摩の豚と交配させたことに始まりがあるようです。この薩摩豚を気に入ったのが、幕末の水戸藩主の徳川斉昭と、その子供で最後の将軍となった徳川慶喜。慶喜は、隠居した後も、島津家に豚肉を何度も所望したという記録が残っているそうです。ところで薩摩汁で使われる肉は、豚肉とは限らないのだそうです。豚以外の肉のひとるは鶏肉ですが、これは江戸時代に薩摩藩で盛んにおこなわれていた闘鶏に由来しています。闘鶏で負けた鶏をしめて汁の具にしたのですが、この鶏汁こそが正当な薩摩汁のルーツだとする説もあるようです。この他、兎肉や羊肉を入れて作る場合もあるそうですが、野兎を入れて煮込んだ薩摩汁は野趣あふれる料理になりそうです。もうひとつ、薩摩汁で忘れてはならない具材にサツマイモもやはり沖縄からもたらされたということですが、火山灰に覆われているようなやせた土地でもたくさんできるため、薩摩藩では盛んに栽培するようになったとのこと。1732年に起こった享保の大飢饉の時に、サツマイモによって薩摩藩だけは餓死者を出さなかったというのは有名な話です。ただし、薩摩藩には必ずサツマイモを入れなければならないということはないそうで、近年はむしろ甘いサツマイモだけではなく、ねっとりとしたサトイモを使ったレシピの方も食べられているようです。
