「けんちん汁」の由来は諸説あるようですが、有力な説に鎌倉の建長寺で食べられていた「建長汁」がいつしかけんちん汁になったというものがあります。基本的なけんちん汁は、根菜を中心とした野菜やこんにゃくをごま油で炒めてから出し汁で煮て、最後に豆腐をくずしながら加えるというものですが、この最後に豆腐をなぜくずすかについて、建長寺にはエピソードが残されています。それは、初代住職の時のこと、修行僧があやまって落としてしまった豆腐を住職が拾い集めて洗い、鍋に入れて使ったというもの。それ以来、くずした豆腐を使うようになったそうです。多くの野菜類を入れるのは、余った野菜を無駄なく使うためだったということもあり、質素倹約を旨とする精進料理の精神にも則った逸話として伝えられています。こんけんちん汁、地方によって独自にアレンジされたものが多いのも特徴で、例えば岩手県で食べられているけんちん汁は、豆腐をもっと細かくそぼろ状にし、先に炒めてから使うということです。また、気仙町など特定の地域では、ごま油の代わりに椿油を使うそうですが、椿油ならではの香ばしさが感じられる汁として、地元民に愛されているとのことです。また、大分県の国東市では「けんちゃん」と呼ばれる料理がありますが、こちらは豆腐にだいこん、サトイモが必須の具材で、他の野菜も加えて作る、汁気が少なく煮物に近い料理だということです。ちなみに、汁気を多くした場合は「けんちゃん汁」と呼ぶこともあり、うどんを入れて食べることもあるそうです。元はけんちんだったのでしょうが、親しみやすいユニークな名前に変化した例のひとつでしょうか。けんちん汁は醤油で味付けしたすまし汁ですが、これをみそ仕立てにすると「国清汁」と呼ぶそうです。建長汁と同じように、伊豆韮山国清寺が起源であるため、そのように名付けられたということです。
